【NHK杯】マジカルモーメントがそこにあった 究極のバラード1番(SP)-2
バラード1番を初めてみたとき、また、ずいぶん、難しいのに挑戦するのね、と感じたことを今も覚えている。
ステップでピアノの音を取り切れてないのを見て、大丈夫かしら?と思ったのが2014年のDOIでの出来事だった。
GPFで構成は落とされたものの、このプログラムは一つの完成の形に近づいたんだな、と思っていた。
だけど、それはもしかしたら間違いだったかもしれないと思い直したのは、神戸で福間さんとのコラボを見たときだった。
この日に見たバラード1番のステップはそこまで見たどれよりも躍動的で、生き生きしていて、音楽とともに存在していた。
ライブの生ピアノとのコラボだったからという側面はあるのだと思うけれど、これはまだ進化できるプログラムなのかもしれないという予感があった。
あの苦しいシーズンのイメージで終わるにはもったいないプログラムだ、と。
だから、バラード1番が持ち越しだと聞いたとき、私はちょっと嬉しかった。
もしかしたらああいう色合いのバーラド1番が見られるかもしれないと期待していた。
スケートカナダで見たときは、そんなことを感じていたことを忘れるくらいの衝撃的な結果で、思い出しもしなかった。
NHK杯は彼にとってホームでの試合。
もちろんやりやすさもあるだろうけれど、それとともにプレッシャーもすごいのではないかな。
自分のファンがどっと押し寄せ、その瞬間を固唾を飲んで見守っている瞬間なんて。
自分だったら、武者震いどころではない。
ボーヤンの95点という点数を聞いても、私は今日のゆづが負ける気は全くしなかった。
今日はきっとあのソチオリンピックの点数を抜くつもりで攻めてくるに違いないと思っていたから。
静かに始まるバラード1番。
もう最初からどきどきしていた。
自分でも無意識なんだけれども、ゆづの演技を見るときはつい祈るように手を合わせている自分がいる。
上手くいってほしい、満足の行くできになってほしい、そう願っている。
4Sでこらえた時、どきっとしたけれど、何もなかったかのようにイーグルに繋げてみせる。
4Sがショートで入れられるほど、安定したことが嬉しかった。
ノートルダムに入れたときから、ソチシーズンまで何度も何度も外せと言われたエレメンツ。
4Tを2本跳んだ方がいいと言われ続け、首を縦に振らなかった彼。
そうやってこだわり続けたからここで決めることができる。
ショートにクワド2本を入れる構成を選択できた。
彼の選択はその時点では正しそうに見えなくても、ちゃんと未来につながっていることを実感できる。
羽生結弦はジャンプだけなんて言う人もいる。
私はあの美しいスピンを見て、どうしてそんなことを言えるのだろうといつも不思議に思っている。
軸のぶれない、速い回転の、そしてバリエーションにとんだ音楽を奏でるようなスピン。
その質感は現地で見るとさらに増す。
いつまでも見ていたいそのスピン。
そして、一番、心配だった4T-3T。
あまりにもあっさり決めてしまったので、それが羽生結弦が試合で初めて決めたコンビネーションだと言うことに気づくのに少し時間がかかった。
これでもう、ジャンプは大丈夫。
最後は鉄壁の3A。
それもむちゃくちゃジャンプの入りに凝ったもの。
もう、笑うしかない。
バラード1番はただ進化したというレベルでなくて、新しい色を重ねて別のものに仕上がっていた。
ステップの最後の方では会場が、いまか、いまかとその終わりのタイミングを待っているように見えた。
今日のプログラムで彼は自分自身の記録を更新するだろう、ということは簡単に想像できた。
フィニッシュの顔が怖すぎたのはご愛敬。
ボーヤンの記録を塗り替えてやる、というエネルギーがそうさせたのかな?
やっと、この美しいプログラムをノーミスで見られた。
想像していた完成形よりも遙かに高度な形で。
彼自身の記録を抜いた「106.33」という点数に驚くことはなかった。
最初の4Sがさらに美しく飛べたらもう少し、あがるのね、と冷静に感じてた。
もしかしたら、シーズン最後までに、4T-3Tは後半になるかもしれないね。
そうやって進化し続けることで、一番前を走って、走り抜けたいんだろうね。
進化し続けるスケーター。
ほんと、凄すぎる。
生きてるうちになんどこんな瞬間に出会うのでしょうね。
彼が現役のうちにまだそういったシーンをいくつも見せてくれる気がする。
だから、彼のファンでいることをやめられない。