【GPS】魔物の住む世界 ~スケートカナダ初日~
自宅から数えると24時間くらいの時間をかけてカナダ・セントジョンにやって来ました。
遠いことははじめからわかっていたけれど、どうしても、どうしてもゆづの演技を早く見たかった。
オリンピックシーズンにどの程度、合わせて来るのか早く知りたかったのだと思う。
シーズン初戦はフィンランディア杯。
そこそこの成績で少しホッとしていた。
だけど、本当の戦いはGPSが始まってから。
先週の町田くんの結果を見て、いろいろ考えているところはあるだろうな、とも感じてた。
今日の朝から公開練習、6分間練習をみても悪いところはあまり見当たらなかった。
むしろ調子はいいんだろうな、と思っていた。
だけど、私達が思っている以上に今年は勝ちを意識し過ぎているのかもしれない。
パトリック・チャンが4回転を跳べずに88点台で終わったあとの滑走。
彼は何を考えたのだろう。
「パリの散歩道」で普通に勝負したら勝てるかもしれない、と横切ったのかもしれないな、と嫌な予感がした。
案の定、オンアイスした時には本当に落ち着かない表情になっていた。
最後のポーズを取ってから、目が泳いでいた。
スタートもワンテンポ、遅れていたと思う。
あ、まずいな、と思った。
結果、4Tではお手つき、ルッツは相変わらずお散歩。
さっきの6分間練習では高さも幅もある綺麗なルッツからのコンビネーションを跳んでいたのに。
クワドだって、何回も、何回も綺麗に決めていたのに。
キスクラでは本当に悔しがっている様子が見れた。
いつもなら周りを気遣って笑ったりもするのに、そういう様子もなかった。
オーサーにただ、ひたすら慰められていた。
そこには多分「魔物」がいたんだと思う。
このシーズン、彼はこの「魔物」と何度も、何度も戦わなければならない。
「オリンピック」という「魔物」は彼から何度も、何度も平常心を奪うだろう。
オリンピックの代表になりたい。オリンピックで滑りたい。そして、願わくばてっぺんに届くメダルを取って、故郷の人たちも勇気づけたい。
そう、願うのだろう。
強い思いは人を何処かに導くこともあれば、思いもよらぬ場所に連れて行く事もある。
いままで彼はずっとずっと追いかける立場だった。
がむしゃらに走りぬけ、誰かを追い抜いて行けばよかった。
今年の彼はちょっと、違う。
もう、守るべき自分の立ち位置、期待されるその結果はかつての自分と違っているだろう。
そして、勝たなければいけないという思いの強さが今日の結果につながったような、そんな気がしている。
だって、普通にやればよかったんだよ、ゆづ。
気負う必要なんてなかった。
クリケットで練習しているのと同じようにやればよかっただけ。
本人もそう思っていたはずだと思うのに、結果はついてこなかった。
でも、きっとわかったはず。
これがあと数ヶ月もの間に自分が戦い続けなければならないものが何か。
私達が見ているのは完成品の「羽生結弦」ではなく、まだまだ成長過程のその姿。
オリンピックという魔物の住むステージに立つためにまだ、必要としているものがある。
それに気づくための、道のりなのかもしれない(つづく)。