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羽生結弦くんの応援ブログです。ここで記載されている内容はあくまでも私の個人的な意見であり、正当性を評価したものではありません。どのように受け取るかはそれぞれがご判断ください。

流血のファントム 〜狂気の中に何を見たのか 1〜

「馬鹿だな」と演技が終わった時、私は小さく呟いていた。
それ以外の言葉が見つからなかった。
目の前で繰り広げられた演技は気迫と狂気に満ちていた。
 
そこにたどり着くまで、私は一滴の涙も流すことはなかった。
 
まるで、夢を見ているか、映画の1シーンを見ているかのように、
目の前で繰り広げられた全てに現実感がまるでなかったからだと思う。
 
それはあまりに突然の出来事だった。
ジャージを着ずに、バックヤードから出てきたゆづをみて、その衣装に、会場が湧いていた。
赤がカッコイイとか、キラキラだとか、予想どおりとか、それぞれ、盛り上がって、ざわざわがいつまでも落ち着かなかった。
やっと、オペラ座を見られる、という熱気が会場中に渦巻いていたと思う。
6連でいつものように先陣を切って飛び出す彼の様子は気合いに満ちていた。
今日は結果を残すという意思が表情やオーラから伝わってきていた。
 
身体もキレキレだったと思う。
練習冒頭で鮮やかにジャンプを決めている彼を見て、ものすごいことが起こるんじゃないかと私もワクワクしてた。
 
その直後だった。
あの事件が起きたのは。
 
ハンヤンとゆづの軌道が重なっていることに私たちも気付いた時、
後ろ向きに滑っていたふたりが振り向いてお互いに気づいた時、
もう、それを回避する時間は残っていなかった。
あまりのスピードに何もなすすべがなかった。
 
会場中から悲鳴があがって、ゆづの名前を何度も叫んでいる人もいた。
自分がどうだったのか、正直、まったく思い出せない。
 
今回はジャッジ後ろのほぼ真ん中のいい席だったので、
自分の目の前でふたりが交差し、体のぶつかる鈍い音をたててから、
アイスに横になるハンヤンと、ゆづを正面で見ていた。
先に立ち上がってリンクを去ったのはハンヤンだった。
苦しそうに胸を押さえながら、動けないゆづを見て、私はその場にいるのが恐ろしかった。
 
最近の彼から、もしかしたら彼は、いつか、その命を氷の上で終えるのではないか、
と漠然とした不安を感じていたからかもしれない。
 
他の選手が捌けた広いリンクに横たわった彼だけが取り残される。
なぜ、誰も、彼に駆け寄らないのか不思議だった。
メデイィカルスタッフが彼に近づくまでものすごい時間が流れていたような気がした。
 
私が見る限り、最初から胸の上あたりを押さえて、咳き込んだりしながら、
メデイィカルスタッフに支えられながら、立ち上がった彼の額と、喉のあたりに血がついているのが見えて、ぞっと、していた。
彼もしきりに口元のあたりを気にしていたので、口の中を切ったのか、と思っていた。
 
リンクサイドに上がった彼の周りを沢山の人が取り囲み、もう私の席からは様子が見えなかった。
永遠とも感じるくらいの長い時間がそこにはあった。
私は誰もいなくなったリンクを前に、なぜか、呆然と立ち尽くしていた。
何をしていいのか分からなかった。
 
日本から情報を取ろうとiPhoneでネットに繋ごうにも、中国は通信環境が悪すぎて、まったく役には立たなかった。
(みなさん、ワールドの時はVPNの準備を!)
 
自分も座って落ち着いたころ、後ろに座っていたご夫婦の旦那様がちょうど、ハンヤンとゆづがぶつかっている瞬間を撮っていた写真を見せてくれた。
ちょうど、振り返りざまにゆづを見つけたハンヤンが驚いて、「あ」というような表情にかわり、その顔面に、ゆづが斜めに激突して、こめかみにちょうどハンヤンの歯があたったのではないか?と思える写真だった。
彼のこめかみから出た血はこのせいだったのかもしれない。
 
その写真の2人の歪んだ顔を見て、その衝撃の大きさと、目の前で起こったことの一部を垣間見た気がしていた。
 
つづく。