【オリンピック】団体戦 男子SP 〜伝説が始まる - 羽生結弦の存在感〜
オリンピックのフィギュアの時間帯は真夜中。
日本でテレビで見ると寝不足になる、そんなスケジュール。
それでもすべてを「生」で見ると心に決めている。
もちろんビデオでじっくり演技のひとつひとつをつぶさにあとで見るんだけど、臨場感はオンタイムで味わいたい。
だからこの日もテレビの前を陣取って、ひとり、アリーナ気分。
途中で落ちそうになった私の目を最初にさましてくれたのはプルシェンコ。
正直、かれがロシアの代表になった過程をみていて、それはないわ、と思っていた部分もあった。
コフトン、かわいそうだな~、と思っていた。
だけど、プル様の演技を見て、ロシアの人たちが彼を選んだ理由がよくわかった。
ハン・ヤンも言ってたけれど、確かに彼のスケートは古いのかもしれない。
プログラムが始まって冒頭にジャンプを固めて跳ぶことも、賛否はあるのだと思う。
だけど、そのジャンプが固まっていても、後半を飽きさせない空気感がそこにはあったよ。
ジャンプがあっという間に終わっても、2分40秒が長いと感じることはなかった。
このまま、もうちょっと見続けたい、と思っている自分がそこにいた。
この圧倒的な存在感、まさに「皇帝」「帝王」とか呼ばれるにふさわしい姿だった。
何が凄いって、この31歳はTESで順位を上げているということ。
4T-3Tを華麗に決めるベテラン、って恐ろしいな。
もちろんロシアの観客は大興奮。
この日の会場はちらほらと空き席があって、なぜ、私はあそこにいられないのだろう、とふと思う。
こんな興奮の舞台にいたかったな、やっぱり。
その後、滑走順で損をしたのはアボットかも。
プル様のすぐ後で、本当にらしさを出せてなかった。
さらにその場の空気にのまれちゃったのは、パトリックだったかもしれない。
ショートでジャンプにミスが出て、プルに勝てず、その時点で2位。
いい色のメダルを目指しているカナダにとっては想定外だったかもしれない。
ゆづがリンクインした顔を見て、今日も大丈夫、と感じてた。
たぶん、ゆづファンの多くは、その日のコンディションを顔をみて分かると思う。
それでも緊張している空気感は伝わってくる。
自分をコントロールしようという意識もちらほら見える。
私は読唇術ができるわけではないので、もしかしたら違ってるかもしれないけど、
スタートまえのゆづが「いくぞ、みんな」と言っているように見えていた。
そう、これはゆづのための試合でもあるけど、Team Japanのための戦いでもある。
どう見てもアウェーの会場。
だけど、周りがどうだって、自分の演技は変わらない、そう分かっているはず。
演技が始まって、ジャッジの前で笑う余裕がある。
不敵な笑みにこちらも笑いがこぼれた。
あっという間にゆづは会場の空気を自分のものに変えていった。
もう失敗するイメージが湧かない、4T。
各国解説が絶賛する、美しく綺麗な3A。
ただ、ゆづの演技を見すぎている私には、この演技では慎重にすべっているように、見えた。
そして、ステップではちょっと、曲に追いかけられている、そんな気がした。
落ち着いて、最後まで走り抜けて、とテレビを前に祈った。
軸が傾いたルッツからでもセカンドジャンプでトリプルをつけられるその技術。
全日本のときにも驚いたけど、ここでもそれを発揮。
ジャンプが決まったあとの流れを見て、今日の勝者はゆづ、だと確信した。
始めてのオリンピック、しかも10代での出場。
誰もが始めて経験する団体戦。
しかもフィギュア陣の先頭を切っての滑走。
各国のエースが出てくるショート。
日本の実力を考えると、シングルはトップで通過しないとメダルには届かない。
そんなことは百も承知だったよね。
外野は勝手なことを言う。
個人戦のための足慣らしにすればいいとか。
でも、ゆづは国の代表として、オリンピックに来ていて、高得点を狙えるから、という理由で自分がショートに選ばれているとしたら、全力でぶつかる、そんなタイプにじゃない?
そんな重圧の中、魔物にも誘惑されず、自分のできることをきちんとやりきった。
フィニッシュポーズのあと、ガッツポーヅを取ったゆづ。
やりきったという清々しい表情だったよ。
点数がでたとき、真央ちゃんもすごーい、と言ってた。
オリンピックでこの点数が出たということは、これがこれからの彼の基準になる、ということ。
スピンの取りこぼしをフォローして、ステップのレベル上げができたら、100点を間違いなく超えることが見えた。
修正する時間はまだある。
ゆづの演技はフィギュアスケートの新しい伝説の幕開けに見えた。
羽生結弦というスケーターが「未来」になった瞬間を私たちは見たのかもしれない。
ロシアの観客は「皇帝」に勝って欲しかったと思うから、その演技に驚愕したと思う。
私はプルシェンコがどんな気持ちでゆづの演技を見ていたのか、いつか聞いてみたい。
そう、彼はこうしてゆづと戦うために、ソチに出てきたのではという運命を感じていた。
自分を継承するものと相対するために。
「未来」へバトンを渡すために。
そして、たぶん、負けるのなら、パトリックにではなく、ゆづに負けて終わりたいんじゃないかと思っていた。
運命のいたづらに作られたようなドラマティックな舞台。
ゆづを見ていていつも感じること。
こういうドラマティックな舞台にめっぽう強い、ハートを持っている。
さらにみんなの期待の斜め上を行く結果で私たちを驚かせる。
だから、一瞬たりとも目が離せない。
初戦にこれだけのパフォーマンスを出せたこと、まずはよかったね。
でもね、ゆづ、これは始まりだよ。
本当の伝説はこれから作るんだ。
そのときは、もう、そこまで来ている。
余談:やっぱりこの衣装の色は会場にとけ込んでたね。その風景の一部のようで綺麗だった。