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羽生結弦くんの応援ブログです。ここで記載されている内容はあくまでも私の個人的な意見であり、正当性を評価したものではありません。どのように受け取るかはそれぞれがご判断ください。

流血のファントム 〜狂気の中に何を見たのか 2〜

どのくらいの時間がたったのか、6練が再開されたとき、リンクにはハンヤンの姿はなかった。
私はてっきりゆづも現れないものだと信じて疑わなかった。
今日はやらなくていい。
バラ1の美しいイーグルや進化したスケーティング、そして、オペラ座の衣装を間近で見れただけでも、中国まで来てよかったと思えていたから。
この状況で彼が滑るだろうとはまったく思っていなかった。
それは私がまだ「羽生結弦」という人間を理解していなかったからなのかもしれない。

頭にバンテージを巻いたゆづがリンクサイドに現れた時、会場中が悲鳴に近い声をあげていた気がする。
まさか、やる気なのか?と。
遠くから見る顔からは血の気がすっかり引いていて、普段から白い顔がますます白く見えた。
「やめよう、ゆづ、今日は、もういいよ」と思っていた。

いつもと同じようにつっこむような勢いでリンクに飛び出す彼。
怪我をしていることを表すバンテージが痛々しかった。

鬼のようにジャンプを確認するゆづ。
ジャンプを跳ぶ度に右肩を揺らしながらどこか痛そうな仕草をしながら咳き込んでいた。
いま思うとゆづよりも私のほうがはるかに冷静でなかった。
この時、彼は、自分が滑りきれる構成を考えながら、ひとつひとつ指差しで、ジャンプポイントを確認して、予定にない3Lz+2Tの軌道を確認し、どこでどのエレメンツを抜いて、何をやり切るかを虎視眈々と考えていたのだから。
私はその姿をぼんやり見ていただけで、そんな意図をもって彼が練習していたことに気付かなかった。
あまりにも痛々しいその姿をみて、私は自分でも無意識のうちに、目の前を滑り去ろうとするゆづに「ゆづ、やめようよ」と叫んでいた。
彼が何を思ったのか、私には分からない。
しなくていいことだった、と今は思う。
でも、心のそこから出た言葉だったし、そんな自分を止められないくらい、動揺していたのだろうと思う。
この時から彼の眼差しは狂気に満ちていたと思うし、得も言われぬオーラに包まれていた。

この6連に出る前にブライアンと話し合う姿が遠めにもよく見えた。
ブライアンも本気で彼を説得しているんだろうと思っていた。
実際に何を言っていたのかを知ったのは部屋に帰ってきて、ネットで知ったのだけれど。
それでもやることを選択した。

この6連の時、他の選手はゆづが近くに来ると、さっと、場所を開け、なるべく彼に近づかないように、気を使っているように見えた。
それがあの事件のあとだったからなのか、彼から出てるオーラのせいだったのかわからないけれど、リンクの上にはいつもとは違った緊張感が漂っていた。

その時、私が考えていたことは、ハンヤンが棄権するなら、滑走順が繰り上がる。
少しでも身体を休める時間が欲しい彼にとってはさらに厳しい状況になるだろうということだった。
2Gの最初の滑走者はナムくん。
いつもクリケットで一緒に練習する彼はゆづのあの姿を見ながら、
どんな気持ちでリンクにたったのだろう。
いつものナムくんらしい明るさや軽快さがちょっと足りないのではと思える演技。
それでも途中で抜けたアクセルをリカバリする賢さをみせつつのミスを最小限に抑える演技。
その落ち着きっぷりに感服しながら、そのキスクラにいないオーサーを思うと、ゆづの状態が心配で心配で仕方なかった。
Twitterでこの時、ナムくんがオーサーがキスクラに来ようとするのを追い返し、ゆづのそばにいさせたというのを知って、16歳の気遣いに驚いたりもした)

2Gで滑った人はみんな重い重い何かを背負って、滑ったのだと思う。
身体に切れがなかったりジャンプがすっぽぬけたり、きっと、みんなして悪夢を見ていたのだと思う。

つづく。