Stay Gold!

羽生結弦くんの応援ブログです。ここで記載されている内容はあくまでも私の個人的な意見であり、正当性を評価したものではありません。どのように受け取るかはそれぞれがご判断ください。

【雑感】近況報告

しばらくブログをお休みしてました。
神戸のFaOIで今年のショーは打ち止めでした。
あまりに衝撃的だった神戸のショーのことも書こうかな、と思ってたのですが、なかなか文字を書く気分になれませんでした。

なんかね、ちょっとばかり、それを取り巻くものにお疲れ気味だったんです。

ソチオリンピックを経て、そして、去年の衝撃的だった中国杯を経て、恐ろしくたくさんの人たちが彼のファンになったのでしょう。
ショーのチケット取りの様子から見ても凄かったし。
真央ちゃんが現役復帰したこともあって、N杯のチケットなんて最初から取れる気がしなかったし、チャレンジはするけど、本当に何とかなるんだろうか?と思ったので、海外遠征にシフト。
その遠征費用を稼ぐために、がっつり働いていることもあって、ちょっと遠ざかり気味でした。


今年のショーシーズンのゆづを見て来て感じたことは、ああ、大人になったな、ということかも。
オリンピック後の彼はそのメダルの重さに必死で抗っているように見えて。
「オリンピックチャンピオンらしく」という呪詛のような言葉を何度も、何度も口にしてたよね。
19歳の彼が背負った重圧は私たちが想像できないくらい、大きなものだったのかもしれない。
中国杯から試練を乗り越えて、ワールドでタイトルを落として、やっと何かつきものが落ちたみないな感じがしてほっとしてました。

ショーでの彼はとっても楽しそうで。
いつものように全力投球であることには変わらないのだけど、変な緊張感がなくなった気がして。
ずっと周りを見ながら、自分の立ち位置を楽しんでいるよう。
そして、興行に対する責任感を感じられる発言もしばしば。

TOIじゃないアイスショーでゆづのマイクパフォーマンスが聞けるなんて思ってもみなかったよ。
それに新しいシーズンに向けて選んだプログラムも、いま、自分が何をやるべきかとちゃんとひとつずつ、大事に選んで、形にしていきたいという思いがたくさん詰まっているような意欲が伝わってくる感じがして。


はやくその全貌を競技でみたいと今からワクワクしています。
今年も全力応援は変わらないと思います。


ただ、ネットの世界(フィギュア関係での)との距離感をもっととらないと駄目かな、とも思い始めています。
なんかね、Twitterみてても、気持ちが疲れることが多くなりました。

彼の情報を早く手に入れようと、企業への凸行為としか思えない、問い合わせの話を聞いたり、
境界がグレーな問題なのにマイルールを振りかざして、人を中傷する言葉があふれていたり、
アスリートとの距離が分からない行動が散見されたり、
いつまでたっても同じようなアンチ活動を展開する表現に多く出くわしたり、
世の中の仕組みを分かろうともせず、自分たちの権利ばかり主張するコメントを見かけたり、


何かね、そう言うものに触れたくないな、と思うようになってきました。
そういう言葉は負のエネルギーが強くて、疲れてしまうんですよね。
なので、昔はTwitterも来るもの拒まずでしたが、そういう言葉に出会わない使い方に変わってきました。
ある意味、自己防衛かもしれません。


ブログは今までのスタンスを変えずに書いていこうと思っていますが、コメントへの対応は少し変わるかもしれません。
今日は朝からJGPを見てて、女子も3-3をフリーで2本跳ぶ時代になったんだな、と感慨深げです。


そんな感じの近況です。
今年はカナダから観戦予定です。

 

ぼちぼち続けていこうとは思っています。

君の選んだ道のり  〜怒涛のアイスショーシーズンを終えて 3〜


まだそれが「SEIMEI」だと知らずに見た一回目。
見終わったあと、私は放心状態だった。
何が何やら、一体、何に挑戦したんだ、という衝撃でいっぱいだった。
後で知ったけど、フリーのショートバージョンで3分。
その間にクワド3本、3A、と3Fを跳ぼうとするなんて。
今年の世界選手権はボストンなのに、「和」で勝負するなんて。
ステップも含めてショーバージョンは忙しすぎて、把握がついていかない。
ただひとつ分かったことは、もう、負けたくないのね、というそれだった。

たしかDOIの数日前にルール改正の話があって、クワド転倒のリスクが高くなるという話題があって、ずっと、フリーでクワド3本を跳ぶと言ってたゆづが何を選ぶのか、ファンだけでなくいろんな人が見守っていたと思う。

結果はクワドは3本、跳ぶ。
絶対に跳ぶ。

そういう意思表示だったように思えた。
どんなルールができようと、フィギュアの進化を止めたくない、とそう思っているのかと。
それはショーで挑戦し続けている4Loにもその思いが現れている気がして。
とことん自分とも、ルールとも戦うつもりなんだろうと。

強気すぎて笑った。
いや、これが羽生結弦だ。

初回のプログラムはとっても荒削りでまだまだ身体の使い方も馴染んでなかったし、
ジャンプも跳べてなかったけども、DOIのユヅのジャンプが跳べないのはいつものこと。
これからこれに磨きをかけたらどんな凄いプログラムになるのだろう、と。

このプログラムが凄いな、と感じたのは動きが激しいのに、静けさとか、日本らしい穏やかな空気とかを表していること。
日本らしさをスケートで世界中に伝えたいのかもしれない。
フィギュアらしい欧米を楽曲を使わずに。

私はこのプログラムが仕上がった姿をふと頭に描いた。
ボストンのアリーナでその美しさに、そして力強さに驚く人たちを見たいを思っていた。
まったく、プログラム一つで私をここまで妄想させるなんて、罪な男です。

さらに私を驚かせたのは4Aへの挑戦。
ムラくんと2人でフィナーレで挑戦。
着氷で失敗してたけど、たぶん、あれはほとんど回っていたと思う。

生きているうちにきっと見られる、そんな気がする夜でした。

そんなゆづの「SEIMEI」よりなにより、わたしを釘付けにしたのはヒロくんのボレロ
もう、ほんとね、あれができるスケーターがまだいたんだ!という嬉しい驚き。
あきおくんとか、織田くんのコミカルな部分を十分に受け継いで、さらに彼らしさを見せられる稀有な存在。
東北で通年リンクのない中、頑張ってきたと、聞いてたけども今年には盛岡に通年リンクもできるし(実はカーリングも)、これからもっと成長していくんだろうな、と。

もっと、もっと、感じたこともあったと思うのだけれど、私のDOIはそんな感じでした。

まだ、つづく、みたいw。

君の選んだ道のり 〜怒涛のアイスショーシーズンを終えて 2~

当初の予定では私の大本命はDOI。
ショーを楽しむというよりは次のシーズン、誰がどんな風に上がってくるのかを感じられる、新しいプロを披露するというコンセプトがいいなあ、と思ったから。
さらに、スケオタ道まっしぐらの私はゆづばかりか、他にも気になる日本のスケーターが増えまくり、そんな若者たちを一度に見られるのが嬉しくて。
今年はゆづの他に気になったのは、そーたくん、若葉ちゃん、そして、久しぶりにお姿を拝見できるまっちー。

それぞれがどんなプログラムを見せてくれるのかにワクワクしながら現地に向かいました。

ある意味、予想を裏切る展開がいくつも満載。

まずはジュニア女子。
もうね、ジュニアとは思えないほどの完成度だったのよ。
もちろん滑りこんでないプログラムだから、ジャンプの失敗やエレメンツの取りこぼしももちろんあるんだけども、そんなことが気にならないくらい、ちゃんと演技としてまとめててるのにビビる。
ゆなちゃん、真凜ちゃん、若葉ちゃん、香織ちゃん(こっちの枠でいいんだよねw)。
もうね、明るい未来しか、想像できないよ、と思うくらい素晴らしかった。
その中でもやっぱり、私は若葉ちゃんの強気が好き。
勝つためにジャンプを全部後半に入れるって、最初見た時、変な声出たよ。
まじか・・・って。

勝ちに貪欲に行く姿勢にはワクワクさせられるの、ホントに。
私にとってはフィギュアはスポーツ。
だからアスリート魂を見せられると、グラっと来ます。

次に私を驚かせたのは、そーた。
大人になっちゃって、もう!って感じ。
最後に競技で見たのが、ジュニアワールド。
数ヶ月しか経ってないのに、すっかり表情も、立ち姿も、仕草も男っぽくなってて。
衣装もとってもかっこよかったし、振付もとってもそーたに合ってる感じ。
まだ、プログラムとしてはまだまだ荒削りだったけど、今年はホントにジュニアの頂点に立つ気マンマンなんだろう、という意気込みが空気で伝わってきた。
そのためにはアクセルの安定と、練習してるクワドがどのくらい降りられるようになるか、だね。
去年のしょーまくんのように確変することを期待してます。

今年、この選手の動向は目が離せない、と思ったのは理華ちゃん。
最初に彼女を見た時から、手足が長くて華のある選手だな、と思ったのだけども、
あっこちゃん効果なのか本当に身体の使い方がガッツリ変わっててびっくり。
しかもDOIの公演中、一度もジャンプを失敗しない安定っぷり。
またもや飛躍の年になるんじゃないかな?と。
ジャンプ構成をどう上げてくるのかも楽しみだな。


まっちーはもうね、なんというかね、夢見てるみたいだった。
それが現実だなんて思えないくらいにね。
ああ、これがやりたかったことなのか、と思うと、競技の世界では実現できなかっただろうな、と思えて。
見ている私も幸せな気分でした。
夢のような時間をありがとう、まっちー。
たまにこうして氷の世界に戻ってきてね。

そして、ゆづ。
まさかのフリーを披露。
想定外の出来事。
今年もショートをやるんだろうな、と思っていたから。
しかも事前情報だと「意外な曲」とのこと。

タンゴとか、ブルースとか、いろいろ考えたけど、どれも意外じゃない。
ゆづにとっての意外な曲ってなんだろう、とぐるぐる考える。

暗転からゆづが浮かび上がった瞬間、変な声が出そうだった。
「和」を選んだのね、と。
そして何の情報もない状態で考えたのは、「陰陽師」か「牛若丸」だったw。


つづく。
(どこまでつづくかわかんないw。)

君の選んだ道のり 〜怒涛のアイスショーシーズンを終えて 1〜

君の選んだ道のり 〜怒涛のアイスショーシーズンを終えて 1〜



昨日、神戸の地にいたことをこれほど感謝する日が来るとは思わなかった。
去年の幕張公演に行って、当分、FaOIは行かなくてもいいかな、という判断をしていたので去年の自分に「アホ、バカ、ボケ」と言いたいくらいw。
怒涛のショーシーズンを(私の中では)終えて、ようやく落ち着いてきたので、少しブログを書こうと思います。
(恐ろしく、いまさら・・・ですが)

今年は最初からチケットの取りにくさを感じてたから確実に取れる海外を視野に入れてたので、ショーは控えめにと思ってて、泊まりの遠征もしないと、と誓ってました(ええ、いつも、私の決意は豆腐のように崩れると観戦仲間に突っ込まれます)。

幕張にたどり着いたのはラッキーでした。
アイクリの追加募集の時に宝くじみたいな確率だろうから、当たったらラッキーでポチっちゃえ、というあれw。
まさか本当に当たるとは。
実は当選のメールをみていろんな意味で心震えた。
ま、稼ぐしかないな、、、と思いつつ土砂降りの幕張参戦。


そう、雨女なんです私。
こののネタでブロク記事何本もかけるくらい。
なので、私が参戦する、とつぶやいている時は天気に気をつけてくださいね。


幕張当日は仕事を切り上げ、傘を購入して現地へ。
多分、今回、参戦したショーの中でこの日が1番いい席でした。
ショートサイドのど真ん中の1列目。
オープニングからゆづとジエーニャに瞬殺される場所。
今年の幕張公演はむっちゃノリノリ。
スケートを見に行ってるんだけも、なんか、ライブ会場にいる感じ。

オープニングからテンション上がりまくりで、血管、きれそうでした。
ゆづのオープニングパフォーマンスはキレッキレで。
楽しくてしょうがないぞ、という空気がひしひしと伝わってくる感じでした。
彼がニコニコ滑ってるとね、それだけで嬉しいんですよ。
ショーは気持ちが楽。
こっちも構えずに楽しめるから。


2プロ滑ったこの日の1本目はなんと、20歳のバーティゴ。
意外すぎてその選曲に笑いがもれた。
もしこれが偶然だったら、それもすごいし、ファンがやって欲しいとつぶやいたり、
ファンレターからこれを拾い上げたなら、エンターテイナーで、みんなを楽しませたい、という気持ちが嬉しいよね。


いずれにせよ、期待を裏切らないのが彼らしいところ。
確かにあのヴァーティゴ、見たかった。
私がファンになる前の初々しいプログラム。
映像でしか見たことがなかった、それ。
ノリノリの曲にとっても楽しんだんだけれども、正直、物足りなかった。
ゆづの演技がじゃなくて、ゆづが成長して動きに余裕がありすぎる感じ。
もっともっと今なら動ける、というのがよく分かる。
(腰フリは抑え気味で、照れもあるのかしら?と思ったけども)


いつもゆづの過去プロを見ると感じること。
進化のスピードが早すぎて、もう過去のプログラムと丈が合わない。
だから、そのプログラムを演じることが彼の成長を感じる機会の一つでもあるのかな、と。
毎年、いろいろ驚いている気がする。


もう一つはコラボ。
シェネルの「Believe」。
海猿好きな私にはたまらない選曲。
さらにまさかのオレンジ衣装。
オレンジだよ、オレンジ。
今までゆづのどんな衣装よりも明るくやわらかい色。
それに合わせたゆるい感じで来るのかと思いきや、意外と、感情をはっきり表に出す系。


前にも書いたけども、J-POPのコラボ、彼は分かりやすくて好きなんじゃないかな。
音だけじゃなくて、言葉にも感情を乗せられるから。
そして、いつもの熱唱。
通常運転。


もうフィナーレの記憶は殆どないけども、ノリノリで楽しいショーでした。


おまけは終わった後、お友達と海浜幕張の駅の近くで軽く飲んだのですが、そこまでの道のりが土砂降り。
ほんとに、私、雨女なんだよね、を実感するショーの幕開けでした。

つづく。

※もう過去のことを思い出しながら書いてるので、微妙に記憶違いもあるかも。笑って見逃してくださいw。

【WTT】バイバイ、クリスティーヌ   〜ラスト・ファントムのつぶやき 2〜

ラスト・ファントム。

これほど見応えのあるプログラムでも、シーズンが終わるとお蔵入り。
多くの羽生結弦ファンと同じように、構成も、振り付けもブラッシュアップしてオリンピックシーズンに見たい、と最後に思っていた。

アイスショーでも見たい、という意見もあるかもしれないね。
私はこのプログラムはピリピリとした緊張感の中で、見たい。
触れたら、手が切れてしまいそうな空気をまとった彼の真剣勝負だからこそ、あのファントムが見られたのだと思うから。
でも、あと、何本、彼の新しいプログラムを見られるかと考えると、違うものを見たい、という気持ちが混じり合う。
もう、はっきりわかってることは彼のパフォーマンスの中毒になっている、ということ。

この濃密で、美しく、激しいこの数分のために一生懸命になっている自分を時々、滑稽に思ったりもするのだけど。

ゆづが、ラスト・ファントムの演技中に、気持ちが入っていたから「バイバイ」って言ったとうシーンを見て、ちょっと、ふいた。

ゆづ、そこはバイバイじゃないよ、と突っ込みたくなった。
確かに振られたんだけどね。


ファントムがクリスティーヌの手を離したのはたぶん、愛を感じなかったからじゃないかな、と私は思っている。
キスには温度がある。
キスで伝わってきたクリスティーヌの心の温度はファントムが期待してたそれではなかったんじゃないかな?と。
だから、手を離す覚悟をした。
彼女を愛してたから。

なーんて、深読みする私に、彼はストレートに「バイバイ」と。

それが等身大の羽生結弦なんだなぁ、というのはとても感慨深げだった。

余計なお世話なのはよ〜くわかってるけど、離したくない人を、その人の幸せを祈って手放す気持ちがわかるような恋をして、もっと違う言葉が出てくるくらい大人になった彼のファントムも見てみたい気がしてる。

「バイバイ(さよなら)」だけが別れの言葉じゃないことを知った羽生結弦がどんなパフォーマンスをするのか、なんて考えただけで、ゾクゾクするよ。
(ただの妄想でw。)


試合後、プロトコルを見て思う。
彼がライバルにきっちりと勝つことだけを考えるなら、フリーでも、クワド1本、後半3Aコンビネーション2本だけで十分なんだな、と。
確実にプログラムはその方が安定するだろう。
彼の強みはジャンプだけじゃないから。
それがフィギュアスケートだという人がいるのも知っている。

その選択は彼にはない。
来シーズンは今年、できなかったクワド3本に再度トライしてくるだろう。
平昌までの道のりの中でもしかしたら、4loも構成に入ってくるかもしれない。

守りに入らない王者はフィギュアスケートの未来を自らの手で切り開こうとしてる。
先人がそうしてきたように。


それをリアルタイムで、生観戦できるこの環境にいまは感謝してやまない。
同じ時代に生きることが、できることに何度も、何度もありがとうを伝えたい気分。

バイバイ、クリスティーヌ。
ファントムは君から旅立ち、次の新しい舞台に立とうとしてる。
私たちはその幕が上がるのをワクワクしながら、待っている。




【WTT】バイバイ、クリスティーヌ   〜ラスト・ファントムのつぶやき 1〜

泣いても笑ってもこれが最後のファントムになる。
その覚悟で代々木体育館に向かっていた。

ゆづを応援し始めてから、私の心を掴んで離さなかったロミオから解き放ってくれたのはファントムだった。
中国杯で見たこのプログラムは一生、私の心を掴んで離さないだろう。
(来年、あっけなくこの言葉が翻るくらいの素敵なプロに出会うこともどこかで期待しつつ)
あれは、妖艶で、力強くて、そして儚い、ファントムは私のイメージぴったりだった。

6分間練習で調子が悪かったのはクワドトウ。
昨日はあんなに綺麗にきまったのに、ね。
クワド2本を揃えるのは本当に難しいことなんだろうな、と感じる。
いつかゆづもそれを当たりまえのようにこなす日が来るのだろうか?

ラスト・ファントムの物語を目のまえにドキドキが止まらなかった。
あの強気発言の結果、彼が何を見せようとしているのか、とて楽しみで仕方なかった。
ムラくんもいい演技をして、いいポジションにつけていたので、ゆづもそれに続いてほしい、とそう思いながら、祈っていた。

会場の空気は昨日と打って変わっていて、コールの後はゆづの息遣いが聞こえてきそうなくらい静まり返っていた。
たぶん、競技が始まる前に、何度かコールの後に掛け声をかけないようにとアナウンスがあったからだろう。
たったこれだけで収まったと考えるのか、昨日とは客層が違うと考えるのか、どちらが正しかったのか、私には分からない。
でも、行動したことにはちゃんとした効果があったように思う。

ウォームアップで跳んだ3Aが綺麗に入って、今日は完璧なファントムが見れるのかも、と期待は膨らんだ。
静かに滑りだすファントム。

最初の4Sは目が覚めるほど美しいフォームのそれだった。
会場は一気に熱狂した。
続く4Tが3Tで着氷したのを見て、私は落ち着かなくなった。

どこでリカバリするんだろう、と。

NHK杯の時、やはり4Tが3Tになって、結果的には3Aを1Aにすることで跳びすぎ回避ができていた。一番、点数を失わずに済む方法はなんだろう、と頭を巡らせていいた。
だから、正直、彼が3A-3Tを3A-2Tで跳ぶまでのことをよく覚えていない。

選択肢はいくつかあった。
3Lz-2Tのコンビネーションを4T-2Tにすること。でも、これはリスクが高い。
そして2つ目は3A-3Tを3A-2Tにすること。
それ以外の選択肢は3Lzを2Aにすること。
でも最後の選択肢は前から踏み切るアクセルジャンプを跳ぶために軌道をかえることも余儀なくされるし、最後のジャンプで修正しきれないのは厳しい。
そんな状況で彼が選んだのは3A-2Tを跳ぶことだった。

彼はいままでもジャンプの飛び過ぎで同じ間違えを何度も繰り返したことはない。
N杯で体験してる彼はきっと、対策を用意しているだろう、という予想をしていた。
(どう考えてそれを選択したのかは本人に聞いてみないとわからないけれど)
それをちゃんとやってのける冷静さを持っていたということ。

ジャンプが決まる度に会場のボルテージは上がっていく。
最後のスピンのころには立とうとする人たちがウズウズしているのが分かった。
多くは4Tが3Tなったことに気づいていないようで、目の前でものすごいことが起こっていると思っているようだった。

GPFの時と同じフィニッシュポーズに戻した彼。
そうなるとますます上海のあれには何か意味があったのかを聞きたくなる。
私はファントムのラストはこのラストが好きだ。

その後、会場はもの悲鳴のようなものすごい歓声に包まれた。
私の後ろで「200点、超えるよね!」と言っていた方がいた。
4Tが決まっていて、そして、3A-3Tを3A-2Tでとんでなければね、と、思わずつぶやきそうになった。
生観戦もあまりしたことがなくて、ジャンプの見分けがつかない人にとってはあれは完璧な演技に見えたのかもしれない。
そんな歓声を彼はどんな複雑な気持ちで聞いたのだろう。
たしかにクワド2本は跳べなかった。
でも、確かにこのシーズンを駆け抜け、そして、ベストパフォーマンスに近いものをやってのけたことは本当に、本当に、素晴らしいことだったのだと思う。

完璧ではなかったけれど、まとまった見応えのある演技だったよ、ゆづ。

家に帰って演技をテレビでつぶさに見て、最後の最後に「ありがとう」と言っていることに気づく。その姿を見てこの日、初めて泣いた。
「ありがとう」はこっちのセリフだよ、ゆづ。
オリンピック後の難しいシーズンに加え、さまざまな試練を乗り越え、私たちに素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
やりぬくことや、諦めないことを意味を自らが実践してみせた。
それがどれほど、尊いことか、分かる人には分かるはず。

会場ではそこまで細かく見れなかったけれど、このラスト・ファントムの所作は本当に美しかった。手の先までファントムだった。
それとともにとても男らしい表情で滑りきっていた。

もう、少年だった彼はそこにはいない気がした。
大人として、男として、ファントムの思いを演じているのだと感じることができた。

これからどんどん彼は大人っぽくなるだろうね。
可愛らしかったかれはどこかに残るのかもしれないけど、もう、すっかり男の顔。

ファントムはそういうプログラムだった。
彼は駆け足で大人への階段を登っていったかもしれない。


つづく

【WTT】始まりと終わり 〜バラード一番の世界〜

国別にゆづが出るとは最初から思っていなかった。
あくまで、それは予感めいたもの。
昨年までの状況や、怪我や手術の影響を考えるとそういう選択になるだろうな、と、感じたからかもしない。

なので、ワールドから帰ってきて、国別出場の話を聞いて、最初にしたことはチケット探しだった。
譲ってくださった方々、本当にありがとうございました。
おかげでこのシーズン最後のゆづを見ることができました。


私自身も始めての国別参加。

いろいろ様子もわからないまま、しかも仕事後に駆けつけたので、見たかったアンドリュー様も見れず。

ゆづは最終滑走。
どんなバラ1を見せてくれるのだろうと、期待は膨らみます。
 
去年、鉄板だったパリの散歩道。
今年はいろんな影響もあって、まだ、ノーミスの演技を見ていない。ここで、そうなったらいいなぁ、と思っていた。

事前に出ていた公式練習の映像からはゆづの軸の細い回転の早いジャンプが戻っているように見えた。
私の大好物のジャンプ。

国別に参戦したのは始めてだった。
会場の空気が今まで見てきたどれとも違っていた。
全体的に冷めた感じがする会場だった。
後で思ったことだけど、たぶん、初観戦の人が多かったんだと思う。
手拍子やスタオベもまばらだったし、声援もおとなしいな、と思っていた。

ゆづが出てくるまでは。

彼が出てきてからの会場の雰囲気は熱狂というか、狂気的なものだった。
たぶんスケート観戦のマナーも知らず、30秒ルールも知らないだろう人のギリギリまで続く声かけ。
ああ、今回もか、とあのたまアリワールドを思い出していた。

「ゆづるくん、落ち着いて〜」という声がかかったのは本当に音楽のスタートする直前だった。
落ち着くのは、そっちだと、突っ込みたくなったけど。
次の瞬間、スクリーンに映ったゆづの表情を見て、ほっとする。
あの時のようにその言葉に反応したりはしてなかった。
闘う気持ちが目に込められたいい顔をしていた。

ネットでこの件に苦情を言ってる人をたくさん見かけた。
昨年同様に私も納得のいかない思いを抱えてた。
でも、初観戦で、ネットにも詳しくない人が暗黙のルール的なものを理解できるか?と言われたら難しいだろうな、ということも分かる。
私自身も試合を最初に観戦したときは周りをキョロキョロしながら様子を伺っていたし。

これは個人の問題というよりは運営側がもう少し手をかけるべきだったというのが本質なのかとも思う。
演技中の席の移動や、写真撮影、コールされてからの掛け声について、こうしてくださいね、とガイドを出しておけば、少しは改善しただろう。
(もちろん故意でやる人は防げないけど)
翌日、何度かアナウンスがあって落ち着いたことを思えば、やっぱりそういう配慮があって然るべきだったと思う。

ゆづはそんなことには関係なくしっかり集中してショパンの音楽に身を委ねていた。
最初のクワドトウの軌道に入って、スリーターンが綺麗に描かれるのを見て、今日のクワドは大丈夫と、そう思ったよ。

ステップからの踏切。
美しい空中姿勢。
軽やかな着氷。
羽生結弦らしい、クワドが帰ってきたな、と。

よくゆづのことをジャンプばっかりと揶揄する人たちがいる。
フィギュアにとってジャンプはひとつのエレメンツ。
ただそれが得意なだけ。
私は彼の美しく軽やかなジャンプはそのものが表現そのものだと思うよ。
ジャンプ廚、上等。
美しいものは、美しいんです。

でもバラード1番の美しさはそれだけじゃない。
すべての動きがピアノの音を表現しているようなメリハリのあるしなやかなパフォーマンス。
スピンの緩急も音の流れにあっている。
うっとりする時間はあっという間。

そして、難しい入りの3A。
この苦しいシーズン、彼を何度も救ったジャンプ。
なかなかうまく跳べなくてと言っていた少年のころの彼。
いつの間にか自分の武器にしてたね。
アクセルは安心して見れる。

最後のジャンプは、鬼門のルッツからのコンビネーション。
フリーでは跳べるルッツがなぜショートでは跳べないんだろう、は私の今年の疑問だった。
ジャンプまでの入りが難しかったことを、その後のインタビューで知る。
それでもこれって確かにDOIで見せた時には、ウォーレイが入ってて、もっと難しかったはず。
観客にわかりにくいところでプログラムの難易度を上げて、自分の限界を広げて来たんだね。
でも、今回も最初のルッツの着氷がだいぶ前のめりで、無理やり3Tをつけてたから、転倒につながっちゃったよね。

見たかったノーミスの演技。

でもこういう現実もありかな、と思う。
まだまだやれることがあると上を目指して行ける。

終わった後、応援席に向かってごめんねと言うように手を合わせた姿を見て、何を謝るのだろう?と思っていた。
ミスはあったけど、間違いなく彼は1位で、12ポイントを稼ぐはずと。
きっと、チームにノーミスの演技で弾みをつけたかったんだろうね
それとも自分が言葉にしたことを実現したかったんだろうか?

有言実行は諸刃の剣。
分かっているだろうけれど、彼はそれを口にすることを躊躇わない。
彼を応援したくなる理由のひとつはそこにある。

どんな時も一生懸命、全力投球。
それがお祭り大会と言われるこの大会でも。
 
つづく。
 

【World】決戦の地 〜王者であることの証明とは〜

2014-2015シーズンの羽生結弦の闘いは大歓声とともに幕を閉じた。本人ですら、こんな山あり谷ありの一年になるとは思っていなかっただろう。

 
オリンピック王者が背負うもの、が何なのかというものと葛藤した1年だったのかもしれない。
いま冷静に振り返っても、ソチオリンピックでの勝利は彼が手に入れたものだったと思っている。
素晴らしかった「パリの散歩道」。
彼の競技人生の中で一番のパフォーマンスだったと思う。
確かにフリーでは失敗も目立ったけど。
フィギュアは絶対評価の競技ではない。
その日、確かにフリーでもトップだったのは彼だった。
パトリックは不運だったと思うけど、彼もまた目の前に見えた金メダルという魔物に飲み込まれた1人だった。
 
 
けれど、多くの人がそういう勝ち方をした彼にオリンピックチャンピオンらしくないと口にした。
ふと、ショートトラックでみんながこけてメダルを取った人がいたことを思い出した。
彼もまた、同じようなことを言われたのだろうか。
 
 
その圧力が今シーズンの羽生結弦から何度も何度も「オリンピックチャンピオンらしく」という言葉を引き出したのだと思う。
そんなに気負わなくていいのに、とファンはやきもきするくらいに。
 
 
認めて欲しかったんだと感じた。
自分がその地位にふさわしいスケーターであると。
そして憧れの王者と同じようにどんな時でも勝てる絶対王者になりたくて、フィギュアスケートの未来を目指して、自分も進化させようとしていた。
 
 
アクシデントは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
フィギュアの神様が彼に王者とは何か、を教えるための。
 
 
彼がこのシリーズに見せたのは諦めない闘志だった。
私たちが見ていないところでどれほど泣いたのか、どれほど苦しんだのか、そして、どれほど諦めようとしたのかわからない。
 
でも彼は試合を休むことなく、その時にできる精一杯でそれに臨んできた。
結果はついてきたものも、そうでないものもある。
それでもその姿をみて勇気付けられた人は多いはず。
私たちスケオタは「馬鹿か、アホか、心配させるな、ボケ」くらいの悪態はつくけど、本当にその選択には頭が下がる。
 
 
そんな彼の「不屈の精神」が王者としての証明だった気がする。
勝ち続けることは本当に難しい。
だから勝って現役を終える選手も多い。
王者が舞台に立つということは、勝利を約束することだと考える人も多いのではないかと思う。
それを踏まえて舞台に上がること、それ自身がチャレンジそのもの。
そして、彼は、それに向かう闘志を見せ続けた。
それこそが「王者そのもの」だったような気がしてならない。
 
そんな王者は戦いを終えたエキシで、そこまでハラハラし続けた私たちや自分の思いを浄化させるかのごとく、ファイナルトラベラーを滑る。
彼のこういったプログラムはもう神がかり的な癒しの効果がある。
ふっと優しいオーラに包まれて、いろんなマイナスの感情から解放させられる。
エレメンツに3Aを入れてくるのはご愛嬌。
楽しそうに、幸せそうに滑っている彼を見ていて、本当にここに笑顔で帰ってこれてよかったと。
あの日は立てなかった、表彰台に立つことができてよかったと感じていた。
 
 
フィナーレで4Tにトライしたゆづ。
知ってるよ、君が綺麗なクワドトウが跳べることは。
でも、ぼく、跳べるんだよ、本当は、と言ってるような綺麗な綺麗なクワドトウだった。
だから次はそれをプログラムの中で決めて見せて。
そう、ため息の出るような、あの美しいクワドトウを。
 
 
続いて4Sを決めたハビ、お兄ちゃん’sに引っ張り出されて4Sを転倒したナムくん、その3人と嬉しそうに戯れる姿を見て、彼はちゃんと自分の居場所を見つけたんだなぁと、感じてた。
 
王者にも休息できる場所も必要。
クリケットで手に入れたものはコーチ、スケート技術というスケートをやるために当たり前に必要なものだけでなく、
家族や仲間という心を休めることが出来る静かな居場所だったのかもしれないね。
 
本当にこの三兄弟がお互いに切磋琢磨して、そろって台のりする日も遠くないのかもしれない。
そんな三人を率いるブライアン・オーサーはこのワールドの一番の勝者だったのかもしれない。

【World】決戦の地 〜ファントムの帰還〜

二連覇、という言葉が自分の頭をかすめなかったか、と言ったら嘘になる。
昨日まで低かった期待のハードルが一気にあがっているのに気づいていた。
それと相反するように6練での彼の様子は昨日とはちょっと違っていた。


こづもムラ君も頑張ったし、いい演技だったけど、やっぱり滑走順が早いと点数は伸びにくい。
それはこの競技ではどこかで見られる光景。


ゆずがリンクに出るときには、彼が1位を取るしか、3枠を確保する方法はなかった。
それもプレッシャーになっただろうか?
本人に聞いて見なければ、分からない。

でも、自分の番がきてリンクでウォームアップしている彼のアクセルが入らなかった時、一瞬、やばい、と思った。
これがサルコウが入らなくなる暗示に見えた。

ジンクスに引きづられやすいところがあると、時々感じたから。

曲が始まって、GPFとはちょっと違うスピードのないサルコウまでのステップ。
怖々と跳んでるという感じだった。
そして、クワドトウへの軌道。
今日も浅いスリーターンだった。
何とか堪えてくれたらと思う淡い期待は無駄に終わる。
もしかしたら、このまま、崩れてしまうのだろうか、というのが頭によぎる。

いつものように気づくと祈りを捧げるかのごとく両手を組み合わせて強く握っていた。
「勝たなくてもいい、滑り切ってほしい」と思っていた。

比較的、よくできていた昨日のショートで気になることがあった。
氷の質のせいなのか、本人の問題なのか、彼のブレードが氷をガリガリと削る音が聞こえていて、NKH杯の時のようだと感じていた。

もちろん専門的なことはわからないんだけど、何度も何度も、彼のよかった試合をビデオで見るせいか、うまくいかない時の違和感を最近は感じるようになっていた。
何かが昨日とは違うと。

最悪の事態も覚悟した。
だけど、羽生結弦羽生結弦だった。

フリップからの3回転ジャンプにはひとつもミスがなかった。
後半で恐ろしく点を稼ぐ3Aからのコンビネーションの安定感は信頼できる。
それでもいつもの彼のそれに比べたら、綺麗に着氷できていなかったけれど。
だって普段のゆづの3Aはもっと美しいんだよ。
この日はなんだか力任せに飛んでいるようにすら見えた。
だから、あの「手抜き」記事の言いたいことは分かる。
でも、言葉は選んで欲しかった、そんな気がする。

私にとっては一番、ファントムを演じていると見えたプログラムだった。
中国杯のそれは、ファントムに憑かれているようなそれだった。
あれは二度と出来ないパフォーマンス。

ファントムはずっと自分の想いにもがき苦しんだ。
憧れるものを手に入れことが出来ないもがき。
このシーズンに起こったことは彼がファントムの心情を理解するために必要だったステップなのかもしれない。
思い通りにならないことばかりのシーズンそのものが。
もがき苦しんで、最後まで滑り切るためにか、自分に喝を入れるように叫び、そして最後に自分の思いも、ファントムの思いも昇華させ、終わらせるために、いろんなものを振り切るような勢いのある仮面を外すポーズだった。

勝負には勝てないかもしれない。
デニスには勝っただろう、でも、ハビには抜かされるかもしれない、と思った。

次のハビの4回転が決まった時、今日はゆづの日ではなく、ハビの日だと素直に納得できたし、負けたのがハビで良かったとも感じていた。

きっと、一番嬉しい仲間の勝利で、
きっと、一番悔しい負けだったと思うから。

それでも、ファントムは間違いなくここに帰還して、
自分がここに存在したことを示して、舞台を降りた。

再演の可能性を仄めかして。

このプログラムを最初に見たときから、ゆづにあったプログラムだと思った。
GPFのパフォーマンスは私の中で、ニースを超えた。
でも、このプログラムにはまだまだ改善の余地がある。
本来の構成で、いやもっと進化した構成で、シェイリーンのブラッシュアップとともにこのプログラムが見れる日をファンは妄想してしまうよ。

この環境での台乗りは十分な結果だと思う。
頑張ったね、と言ってあげたい気持ちもある。
それはちょっと、言葉としては違う気がしている。
なぜなら、彼はきっと一番高いところに立つつもりで、準備してきたのだろうから。
だから、悔しいを連発したんだと思う。
それなら、私の伝える言葉は「次は表彰台のてっぺんを取り返そう」だ。
また、挑戦者としてそこを目指すことができるのは幸せだよね。


報道や周りの人の言葉を聞いたりすると、もう羽生結弦は当然のようにトップに立つことを期待される選手になったんだと感じる。
あいつなら、どんな状況でもやるだろうと。
だから、2位以下は負け扱い。


ゆづがなりたいと切望した絶対王者としてもう世間は見ているってこと。
だから、言葉も厳しくなる。
トップに立つアスリートが孤独だというのはそういう側面もあるんだろうね。

勝つことより、勝ち続けることのほうが難しい。
追うもののない自分との戦いは苦しかっただろう。
次は追う背中が見えた。


そうは言っても、道のりはさらに険しそうだけども、
何もできないから、ただ見守り続けようと思う。
ファンにできることってそれしかないんだよね。



財布の紐を緩めまくって、ついていきますw。

 

 

 

つづく

【World】決戦の地 〜締めくくりのバラード〜

ここに来るまでに出てきた情報では、何が起こっているのか、どんな状態でこの試合に臨むのか、想像すらできなかった。

ただ、もう、見守るしかない、そう思って上海入りした。

2度目の上海。
 
中国という国に抵抗があった私をここに連れてきたのは間違いなく、羽生結弦という存在だった。
そしてここはあの強烈な思い出を作った街。
 
上海の街の風景を見ると、あの時のことを鮮明に思い出す。
 
そうあの「流血のファントム」を。
あの事故から始まったグランプリシリーズ。
何かに憑かれたようにファントムを演じた彼。
 
あれ以上の気迫は彼の競技人生の中でも見ることができないだろうと、そう思っていた。
あの時と同じ会場で彼が滑り切ってくれること、それだけを祈っていた。
結果は二の次で、元気で滑っている姿が見れればいい、とどこかでそう思っていた。
 
限られた時間の中で、精一杯の戦う準備をしてきた彼に対して、そう思うことは失礼だったのかもしれない。

中国杯のときの緩い感じの運営は、セキュリティの強化とボランティアスタッフの増員などでカバーされ、ずいぶんときちんとしたものだった。

ゆづの滑走順にたどり着くまえから、日本男子は厳しい戦いになっていた。こづも、ムラ君も想定外の順位に沈む。
まかさこのふたりにこんなことが起ころうとは思いもよらなかった。

SPの要素抜けはきつい。
点数的にも、心理的にも。
男子は想定外の順位になった選手も多かったように思う。
ゆづにも頑張ってもらって、明日二人も頑張ってくれたらと、途中からは祈るような気分だった。

会場のスクリーンには時々、後の組みのウォームアップシーンが映される。
ゆづやハンヤンが映ると、リンクサイドでスタンバイしてる選手をそっちのけで歓声があがる。
その熱狂ぶりは少し怖いくらいだった。
 
6練で出てきた時、一瞬、顔色が悪いのかと思った。
今、思うと、独特の照明のせいだったのかもしれない。
(テレビでじっくりみんなの顔を見たらみんな顔色悪く見えたw)。
また、グラデーションの色を変えてきた衣装。
4T以外は安心して見えられそうだなぁ、と感じて。
このリンクで滑ることにどんな思いを馳せてるんだろう、と考えたりもした。
 
それでもスタートポジションに立った彼はとても落ち着いているように見えた。
誰かも書いてたけど、中国では演技の前の静けさはない。
音楽が鳴りはじめても、ガヤガヤ。
私は大丈夫かな?と心配したけど、ゆづはいつも通りだった。
 
伸びるスケーティング。
一蹴りでどこまでいくんだろう?という滑らかさ。
そして驚くべきスピード。
 
最初の4Tを跳ぶまでそれを堪能してた。
多くのゆづファンが分かってることだと思うけど、彼のこのジャンプは直前のスリーターンの深さを見ると、失敗か、成功かが大体読める。
スリーターンが浅い時はダメな時。
見ていて、たぶんターンのところで、「あっ」という声が出てたと思う。
 
回りきってのステップアウトで手をつく。
それでも、次の瞬間にはもう何もなかったかのように音楽に溶け込んでた。
 
昔はなかなか立ち上がらないとか、言われてたのにね。
そこからはもう目も心も奪われて良く覚えてない、かもw。
 
ただもう、全てが音楽と合っている感じが凄くて、スピンのポジションチェンジや、手の細かい表現までがビタッとはまっているように見えた。
 
これがゆづの進化なんだな、と感じる。
まるで彼自身が音を奏でているのではと錯覚させる動き。
 
全てがただ美しかった。
冒頭のミスなんて忘れるくらいに。
 
そして、フィニッシュのポーズの彼が手を握りしめる動作で完全に心を鷲掴み。
キュン、どころの騒ぎじゃなかったよ。
魂そのものをガッツリと掴まれたような感覚。
やってくれたな、と。
 
このプロの締めくくりに相応しい素晴らしいパフォーマンスにスタオベして、拍手して、ちょっとだけ涙ぐんだ。
 
最悪の状態も覚悟して乗り込んだ上海だった。
元気に滑ってくれたら、それだけでいいと、下げた心のハードル。
期待をはるかに超えたパフォーマンスをこの上海で見れた事がなによりの幸せだった。
 
ゆづ、おかえり。
やっぱり氷の上の君が一番生き生きしててかっこいいよ。
戻ってこれてよかったね。
 
まずは明日につながった。
 
 
 
 
つづく。